相談事例

CASE

コロナ禍で考えたこと ~目をそらしていた家族関係の直視~

2020.8 櫻井惠子

1.増えた相談

志村けんさんと岡江久美子さんの突然の訃報は、私も含め60代以降の人に大きなショックを与えました。前触れもなく突然死が襲うこと。救急搬送されてからは家族にも会えない。エクモ(体外式膜型人口肺)の導入ともなれば本人の意識もすでにない状態で、何かを書き残す余裕もない。その恐怖は、死が他人事ではなく身近なものとなり、「自分が感染したらどうなる?」「自分は今何をしておかなければならないのか?」自問自答したのではないでしょうか。

ある依頼者は、「今自分が死んだら残された家族は自分の財産を巡って争うことになるのではないか」と不安に思い、「残された家族がもめることがないよう遺言を書きたい」と言われ、ある社長さんは自分が急死しても会社が継続できるよう、「事業承継の仕方を相談したい」と言われました。これまで必要性は感じながらも重い腰が上がらなかったことを、コロナ禍が背中を押したわけです。

一つ困ったのは、顧客は明日にも自分が感染したらという焦りから、すぐにでも公正証書遺言を作成したいと希望されたことです。緊急事態宣言後、連休もあり社会機能は休止状態でしたから、それはかないませんでした。そこで、連休前にとりあえず自筆証書遺言を作成していただき、その後、少しコロナ禍が落ち着いてから公正証書遺言を作成しました。さらによかったことは、皆さん、遺言書を書くだけでなく、家族や会社の役員・従業員と向き合い話し合う機会を持たれたことです。

2.私がしたことは

私も高齢者の部類に属しますので、まず事務所の承継について書き記しました。事務所の法人化(平成19年)を手始めに、業務の移管は以前より進めており、今年の3月にはこれまで櫻井個人が行っていた後見業務も法人へと移管しました。しかし、法人の経営面、後見業務の身上監護面(ご本人との面談や施設との話し合い)等まだまだ私しか行っていない業務が残っており、突然差配できなくなったら一大事と思い、結構大胆な承継案を作成しました。

また一個人としては、早く作成せねばと思いつつ延び延びにしていた「尊厳死宣言」を、連休明けに夫婦で作成しました。これは不治の病に罹り、死期が迫っている時、「死期を延ばすだけの延命治療はしないで欲しい」という意思を公正証書にし、自分で意思を表明できない状態になった時に医師に見せてもらうために作成するものです。当法人では、ご本人のご希望があれば、尊厳死宣言に「事前聞き取りシート」を添付しております。事前聞き取り取シートの中の1項目に呼吸状態が悪くなった時に、「気管切開をするか」「気管内挿管をするか」「人工呼吸器の装着をするか」という問いがあり、「する」「しない」「その時にならないとわからない」のいずれかにチェックを付けるようになっています。

これまでは、私自身はこれら3つの問いに対しては「しない」にチエックをするつもりでしたが、エクモを使った治療で生還された方に関するニュースを見て少し考えが変わり、「その時にならないとわからない」を選択することにしました(もっとも、コロナはほとんどの場合、不治の病とはいえないでしょうから上記の延命治療の対象には該当しないかもしれません)。

また、別途、認知症になったときの準備として、夫婦で「任意後見契約」を締結しました。(通常、顧客には「見守り契約」「財産管理等委任契約」「任意後見契約」「死後事務委任契約」「尊厳死宣言」「遺言」の6点セットをご説明し、必要とされるものを公証役場で同時に作成します。)

ところが、私の相続人は夫と子供一人なので、もめることは考えられなかったためうかつにも遺言は必要ないと思い作成しませんでした。しかし、夫が認知症になり、私が先に亡くなった場合、遺産分割協議は夫の後見人と子供とで行うことになります。原則的には、夫の後見人は夫のことを考えて遺産の半分は確保しなければなりません。夫と子供が半々で相続するのではなく、「夫は年金があるし自宅もあるので、財産は子供に多く残したい」と考える場合、遺言を残しておかなければその希望は実現できません。顧客には成年後見と遺言の関係を説明しておきながら、自分自身のケースではこの点をすっかり失念しておりました。もっとも、残すほどの財産もないことに書きながら苦笑しましたが・・。

3.法務局での自筆証書遺言の保管が7月10日から始まります

これまで主として、①「公証役場で作成する公正証書遺言」②「自分で作成して自宅や貸金庫などで保管する自筆証書遺言」の2つが使われてきましたが、新設された③「法務局での自筆証書遺言の保管制度」は①②双方のいいとこ取りをした簡易な手続きです(自筆証書遺言の保管制度については、既にさくら25号でご説明しております。)。とは言え各々一長一短ありますので、慎重に選択すべきです。ちなみに、①②③の遺言としての効力は同じです。何通かあれば、最新の日付のものに従うことになります(但し、過去の遺言と最新の遺言の内容に抵触がなければ、過去の遺言も有効な場合もあります。)。詳しくは弊所HPの相談事例「自筆証書遺言書保管制度について、従来の自筆証書遺言や公正証書遺言との違いを教えてください。」をご覧ください。

ところで忘れていた私自身の遺言書ですが、作成したら試しに③の制度を利用してみようと思っています。

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