相談事例

CASE

相続税対策として幼少の孫を養子にする場合の問題点はありませんか?

2016.1   担当者 の回答

相続人が増えると相続税を計算する際の控除額が増えるため、相続税対策としてお孫さんを養子にされることがありますが、その方がお亡くなりになられた際に起こり得る問題について事例に基づきご説明します。

【事例】

 

 太郎君は二郎さんと三代さんの間の子供です。太郎君の親権者はお父さんの二郎さんとお母さんの三代さんの二人です。「親権者」とは太郎君の①財産管理②身上監護をする人です。成年後見人の業務と似ていますね。しかし、親権者の任務は、子供が財産を持っていることは少ないため、法律行為の代理と身上監護(未成年の子を監護、教育し、一人前の社会人となるまで養育する親の権利と義務)が中心です。身上監護の中には、成年後見人の業務には含まれない、居所指定権、懲戒権、職業許可権も含まれ、成年後見人以上に責任は重大です。

 さて、夫(俊郎さん)から多額の遺産を相続した二郎さんの母の俊子さんが、平成20年に節税対策のため、孫の太郎君(当時2歳)と養子縁組(普通養子縁組)をしました。その結果、俊子さんの子供は2人から3人に増えました。しかし、養子縁組の本来の目的は、太郎君と俊子さんとの間に法律上の親子関係を作ることですから、養子縁組と同時に、太郎君の親権は二郎さんと三代さんから俊子さんに移ります。

Q1:俊子さんは太郎くんが5歳のときに亡くなりました。二郎さんと三代さんの太郎君に対する親権は復活するでしょうか?

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実の親が存在するのだから、実の親の親権が復活するだろうと考えがちですが、親権は二郎さんと三代さんには戻りません。

そのため親権を行使する者が不在となり、太郎君には親権者がいない状態となります。ところが、太郎君は俊子さんの相続人ですから、俊子さんの遺産について、一郎さん、二郎さんと一緒に3人で遺産分割協議をしなければなりません。5歳の太郎君は未成年者ですから遺産分割協議をするためには法定代理人が必要です。親権者がいない場合、家庭裁判所で「未成年後見人」を選任する必要があります。未成年後見人とは、未成年者に対して「親権を行う者がいないとき」または「親権を行う者が管理権(財産に関する権限)を有しないとき」に法定代理人となる者のことで、「親権が復活しない」とは「親権を行う者がいないとき」に該当することになります。二郎さんと三代さんを未成年後見人の候補者として申立てをすることはできますが、100%確実に二郎さんと三代さんが未成年後見人に選任されるかどうかは分かりません。

 その解決策としては、俊子さんと太郎くんが「死後離縁」をすれば、二郎さんと三代さんの親権が復活します。死後離縁とは、養親と養子のいずれか一方が先に死亡した後に、生存当事者が離縁を望む場合に、家庭裁判所の許可を得てする離縁のことです。未成年後見人の選任でも、死後離縁でも、どちらにしても家庭裁判所での手続は必要となります。

Q2:では、養父母が死亡し相続が生じた後に死後離縁をした場合には、養父母の死亡により生じた相続権はどうなるのでしょうか?

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一旦生じた相続権には何等影響はなく、死後離縁の後も相続人の地位は失われません。養親子関係に基づき既に生じた相続における相続人の地位は影響を受けないのです。従って、太郎くんは俊子さんの財産を相続することができます。ただし、養父母死亡後に養子が死後離縁手続きをすると、縁組先の兄弟姉妹との親族関係は喪失しますので、養子及び縁組先の兄弟姉妹いずれが死亡しても相続権は発生しないことになります。この場合、太郎君は、配偶者も子供もいない叔父の一郎さんの相続人になることはできません。

親権と相続権、複雑な関係にあります。ご注意ください。

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