相談事例

CASE

成年後見人が選任されたら、その後は身内が何もしなくてもよくなるのでしょうか?

2016.1   櫻井 の回答

成年後見人は、認知症、知的障がい、精神障がいにより判断能力が不十分な方(以下、「本人」といいます。)が、財産侵害を受けたり、人間としての尊厳が損なわれたりすることがないよう、法律面や生活面を支援します。成年後見人は、本人の意思を尊重して、その心身の状態や生活状況に配慮しながら(1)「財産管理」と(2)「生活・療養看護」という2つの業務を行います。

(1)「財産管理」業務とは

本人の財産を管理する。

本人の財産に関する法律行為についての代理権を行使する。

本人が行った法律行為の取消権を行使する。

(2)「生活・療養看護」業務とは

介護契約・施設入所契約・医療契約等について代理権を行使する。

本人の生活のために必要な費用を本人の財産から計画的に支出する。

これらの業務の多くは、契約の締結などの法律行為をすることで、介護や看護、付き添いなど直接世話をする事実行為は、成年後見人の業務ではありません。親族の中には、成年後見人が付けばもう何もしなくてもよいと誤解されている方もありますが、たとえ施設に入られても、洗濯、買い物、通院の付き添い、衣替え等親族の支援が必要な部分があります。

 また、成年後見人には医療行為に関する同意権限もありません。現状では医療行為の同意ができるのは、本人と親族だけです。入院契約や入院費の支払いは成年後見人の業務範囲であり、それに関連して医師から本人の状況を聞くとともに、本人に関する情報を提供し、適切な医療を求めることが成年後見人の役割です。しかし、身体に対する強制を伴う事項(手術や入院の強制、身体拘束、介護の強制、リハビリの強制、健康診断の受診の強制等)及び一身専属的な事項(婚姻、養子縁組、臓器移植の同意等)は成年後見人の権限には含まれません。

 成年後見人は身元引受人(身元保証人)、連帯保証人等にもなれません。

 成年後見人の業務は本人が亡くなられた時点で終了します。お葬式等死後の事務も基本的にはできません。

 このように、成年後見人は全てのことができるわけではなく、成年後見人を選任すれば全てのことが解決するわけでもありません。成年後見人は本人にとって必要なことを手配する人と考えて頂いたほうがいいかもしれません。入院するときは、介護タクシーやヘルパーさんにお願いして、病院まで連れて行ってもらい、入院に必要な準備を依頼します。退院時には、本人にふさわしい住まいを探します。もう少しリハビリが必要であれば老人保健施設を、在宅が可能であればお掃除や買物のためヘルパーさんの手配を、リハビリやお薬の管理が必要であれば訪問リハビリや訪問看護の手配を、自宅での入浴が難しいようであればデイサービスの手配等を、病院の相談員の方やケアマネさんと話し合いながら行います。

 もっとも、私どものような第三者が成年後見人となる場合は、親族がおられない、あるいは、おられても協力を得られないことが多いのですが、最近は医師も成年後見人の立場を理解され、同意書なしでも必要な手術であればして下さいますし、施設も成年後見人がいれば身元引受人がいなくても入所契約をしてくれるようになりました。葬儀・納骨も誰もする人がいない場合は応急処分義務として行うこともあります。しかし、親族がおられる場合は本人の生前になんとか絆を回復していただけるよう努力をしております。

 成年後見の申立を考えられるときは、今、後見人を選任すれば困っていることが解決することなのかどうか、よく吟味されてから手続をされることをお勧めします。

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