相談事例

CASE

成年後見制度は使い勝手の悪い制度ですか?

2019.1 櫻井 の回答

成年後見制度が始まって19年、(1)「成年後見制度は使い勝手が悪く、利用者にメリットが感じられない」(2)「親族はほとんど後見人に選任されず、専門職後見人ばかりが選任される」(3)「専門職後見人に費用が掛かる」と、成年後見制度(以下、「制度」といいます。)は不評です。とりわけ、制度を知っていると思っている専門職(司法書士、弁護士、税理士等あるいは金融機関)やすでに制度を利用しているご家族から厳しい批判があります。

確かに、当初、この制度は、家産(家の財産)の維持を重んじた禁治産制度が180度転換され、判断能力の不十分な人(以下、「本人」といいます。)の意思の尊重、ノーマライゼーション(障害や年齢に関係なく、他の人々と同じように暮らせる社会を目指す考え方)を理念とした新しい制度との触れ込みでしたが、実際の運用は財産の維持と不正防止に偏ったものでした。したがって、本人の資産を減らさず、本人の権利を確保することに重点が置かれました。

例えば、①「本人の外出に同行する親族の交通費や食事代は本人の財産から支出してはいけない」②「親族が遠方から見舞いに来ても、親族としての情愛に基づいて行うべき行動であり、旅費を本人の財産から支出してはいけない」③「これまで他の孫に支出していたとしても多額の結婚祝い、入学祝は本人の財産を減らすからだめだ」④「本人の通院に必要な車も、本人のための使用頻度が家族のための使用頻度と比べて少なければ、本人の資産での購入はだめだ」⑤「相続であれば、たとえ本人に十分な資産があっても本人の法定相続分は必ず確保しなければならない」等々です。

私たち後見人は解任されては大変ですから、本人の資産を使うことには慎重になり、⑥「孫へのお年玉1万円ずつ支出してもいいでしょうか?」⑦「病院の個室に入院してもいいでしょうか?」⑧「50万円以上する補聴器を買ってもいいでしょうか?」と、何かにつけ家庭裁判所にお伺いを立てていました。そのようなことを知らない親族後見人は、悪気はなく生命保険金の受取人を植物人間状態の本人から家族の名前に変更して、家庭裁判所から解任すると言われたことがありました。それで、上記(1)のような批判が未だにあるのです。

しかし、家庭裁判所の制度の運用は数次にわたり変化しています。とりわけ、2016年(平成28年)成年後見制度利用促進法が施行されて以降、「本人の自己決定権の尊重の実現のためには後見人の裁量をもっと幅広く認めた方がいいのでは」と流れが変わりました。少なくとも大阪家庭裁判所後見センターでは、「本人の利益や生活の質の向上のために、本人の財産を積極的に利用すること」は制約していません。(裁判官の職権行使の独立の原則がありますので、異なる裁判所もあるかもしれません。)。

それに伴い、上記①②は「親族との交流によって本人が喜び本人の生活の質の向上になる」のであれば、③⑥は「本人が過去に子や孫に高額な祝い金やお年玉を出している場合には、今回も同じような行動をとることが本人の推定的意思と解される」ので、④は利用頻度が少なくても、「施設や病院への送迎や気晴らしのドライブ等は本人の生活の質の向上に資する」ので、⑦⑧も「本人の生活の質の向上に資する」ので、という理由で裁判所はこれまでのように制約することはなく、後見人の裁量に委ねられるようになりました。

そこで、後見人としては「本人の資産」、「親族の本人へのかかわり方」に鑑みて、さらに「本人の意見」を聞き、あるいは推定して、判断することになります。⑤の相続については判断が難しいところですが、大阪家庭裁判所は「被相続人に対する他の相続人の貢献、本人の意見、事業用財産承継の必要性等の「特別な事情」があれば、法定相続分を大きく下回る内容の遺産分割もやむを得ないと判断されることもある」との見解を示しています。暦年贈与や遠い親族に対する扶養についても相談できる可能性が出てきました。

上記(2)についても、親族後見人による本人の財産の横領額が年間50億円を超え、不正防止のため専門職後見人の選任に偏っていましたが、後見制度支援預金や短期監督人を導入し、支援を手厚くして、これからは親族後見人を増やす方向に舵が切られます。

上記(3)については、専門職後見人は単身高齢者等親族との関わりが少ない方の支援をすることが多く、たとえ感謝されていたとしてもその方たちの声は表に出ることは殆どなく、残念なところですが、後見人の報酬はあくまでも本人の資産から頂くため、報酬がでないケースや、時給に換算すると最低賃金にも満たないケースでも、多くの後見人は社会貢献と思い頑張っています。後見業務は毎日のように長電話がかかってくる、休日関係なく呼び出される、夜中に緊急の連絡がある、と通常の業務とは異なります。とはいえ、30代の若い知的障害の方であれば、月額2万円の報酬ですと40年間で合計960万円の報酬になりますから、本人のために一生懸命貯蓄してきた親族から見ると不満が出るのも頷けます。つくづく介護保険のような共助の制度があればと思います。

 

2019年(平成30年)度から、制度の管轄所管が内閣府から厚労省に移管し、さらに福祉的観点が重視されています。「利用者がメリットを感じられる制度」にするために、後見人は「私たちのことを私たち抜きで決めないで」をモットーに、本人の「意思決定支援」を肝に銘じ、後見業務を行うことが求められています。より良い制度にするために、今、裁判所、自治体、専門職は地域を巻き込みネットワークを作ろうとしています。どうかこの制度は使えないと切り捨てないで下さい。法律は生き物です。進化しています。(第141号平成302月発行リーガルサポートOSAKAタイムズ「大阪家裁後見センターNEWS!」参照)

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