相談事例
CASE
2026.1 櫻井
一郎さんは、相続登記義務化のニュースを目にしました。
「令和6年4月1日から相続登記が義務化された」「相続により不動産(土地・建物)を取得したことを知った日から3年以内に登記が必要」「正当な理由なく登記をしなければ、10万円以下の過料が科される」——そんな内容です。
一郎さんの家族が住んでいる土地と建物は、登記簿上では戦前に亡くなったお祖父さん・栄作さん名義のままになっていました。栄作さんの死亡後は長男の太郎さんが相続し、太郎さんが平成26年に亡くなった後は、一郎さんが相続したはずでした。
令和6年4月1日より前に相続した場合は「3年の猶予期間」があり、一郎さんは令和9年3月31日までに相続登記を行う必要があります。
相続登記の依頼を受けた弊法人は、まず
を調査しました。
栄作さんは昭和19年(旧民法下)に亡くなっており、長男の太郎さんが家督相続していました。
一郎さんは「父(太郎さん)の相続人は、自分・母の花子さん・弟の二郎さんの3名だけ」と思っていました。しかし実際には、花子さんの相続人も太郎さんの相続に関わることが判明しました。
そして、この花子さんには、太郎さんと結婚する前に「春子さん」という娘がいました。春子さんは、生まれてすぐアメリカ在住の田中守氏夫婦の養子となり、後にアメリカ国籍を取得して名前を「アンさん」に変えていました。
当時(昭和29年)、日本には「特別養子制度(昭和63年導入)」がなく、普通養子制度だけでした。そのため、養子は実親(花子さん)と養親(田中夫妻)の双方の相続人となります。
つまり、春子さんは花子さんの相続人であり、花子さんが亡くなっている以上、太郎さんの相続登記には春子さんの協力が不可欠ということになります。
春子さんは元々日本国籍で、11歳でアメリカ国籍を取得するまで戸籍には記載がありました。しかし、戸籍には
しか書かれておらず、行方を示す情報はありません。
一郎さんは「本当にそんな人がいるのか?」と狐につままれた思いでした。親戚に尋ねても誰も春子さんの存在を知りません。

▼ どうやって探し出したのか
アメリカには、驚くほど情報が集まる「人物検索専用の商業サイト」が複数あります。日本名は少ないため、案外ヒットしやすいのです。
田中守氏を検索すると、大学教授であることがわかり、わずか5分で情報が出てきました。すでに亡くなっていましたが、家族構成も表示され、子の中に生年月日が春子さんと一致するアンさんがいました。
アンさんで検索すると、現在の住所らしき情報が判明したため、詳しい内容は書かず、私たちが探している人物であるかどうかを確認する手紙を送付しました。
一週間もしないうちに、弊法人宛にアンさんからメールが届きました。詐欺を疑っている様子で、「相続財産はいらない」「一切関わりたくない」という内容でした。ただし、自分が田中守氏の娘であることは認めていました。添付ファイルは開かない可能性が高いと考え、「なぜあなたの協力が必要なのか」を丁寧に説明した長文のメールを送りました。
数回のやりとりの中で誤解が解け、最終的に春子さんは協力を承諾。遺産分割協議書に公証人の認証のある署名をし、原本を日本へ送付してくれました。公証人の認証費用や郵送代を支払いたいと申し出ましたが、「口座番号は教えたくない。費用も一切不要」という返答でした。
花子さんとのやり取りに約3か月を要しましたが、無事に相続登記は完了しました。
(※実際のケースでは、長年の放置により相続人が34人に膨れ上がり、そのうちの一人が春子さんでした。太郎さんが亡くなった直後に手続きをしていれば、花子さんの署名捺印のみで済み、春子さんは相続に登場していませんでした。相続登記は、早期に行うことが何より重要であるという教訓です。)
▼ “自分には関係ない”と思っていませんか?
昨年だけで、同様のケースを弊法人は3件受託しました。
戦後の貧しい時代、日本から海外へ渡った子は多く、その子どもたちが相続人の一人となっているのです。また、日本の海外移住は150年以上の歴史があり、ハワイやブラジルをはじめ日系人は世界で約500万人いると言われます。
相続登記が長期放置されている不動産を調査すると、「相続人が外国籍」「相続人が海外在住」ということは決して珍しくありません。その結果、相続登記ができず不動産を活用できない相談も増えています。
相続登記を先延ばしにすると、今回のように思いもよらない人物が相続人として登場し、手続きが数倍に膨れ上がることがあります。
「うちは大丈夫」と思っていても、リスクは誰にでも起こり得ます。
早めの登記が、ご家族の負担を軽くする最善の方法です。
また、独身であったり、ご夫婦に子がいない場合など、兄弟姉妹が相続人として登場することもあります。ややこしいことになりそうな場合は、遺言書を作成することも回避の手段となります。
弊法人は、皆さまの大切な財産と想いが確実につながるよう、丁寧にサポートいたします。